計算式の根拠(高額療養費)

きのうは療養費の話をしたので、きょうは同じ療養費でも高額療養費について。
医療費が多額になってしまった場合、自己負担額に一定の枠をあてはめ、そこからはみ出した部分を払い戻しましょう、という制度である。これも現物給付ではなく、いったん自分で支払ったあと、申請書を提出することによって、指定した口座に振込まれる。
だが、これはなかなか複雑で、「病院代がすごくかかってしまったんですが、なにか補助ってありますか?」と聞かれたときに、簡単に即答できないのである。
まず、対象になるのは、同一人物が、同じ月に、同じ病院の科にかかった金額だけである。月をまたがって入院した場合、医療費が5月に6万円、6月に7万円かかったとすると、これは該当しない。だが、もし5月1ヶ月で13万円の医療費を支払ったとすると、今度は該当してくるのである。*1
また、ひとことで「医療費」といっても、対象になるのは健康保険の範囲内だけであり、差額ベッド代や雑費、食事療養費などは支給対象にならないので、実際に病院に支払った金額と、対象になる金額はかなり開きがあるのがふつうである。
概要は、社会保険庁のサイトに載っているのだが、自己負担限度額だけでも、年齢と所得によって7種類に分かれているのがお分かりだと思う。即答できないわけである。実際の業務では、該当しそうな領収証をすべて見せてもらい、計算した上で該当するかしないか、該当するのならいくら戻ってくるのか、というのを回答するようにしている。
しかし、この計算式って、いったいどういう根拠で決められているのだろうか。一般的な例でいうと、72,300円を超える場合に該当するのだが、かかった医療費が増えると、自己負担限度額も少しずつ増えるようになっている。この基準となる72,300円という額にしても、わたしが社労士になってからだけでも、2度も改定され、そのたびに大幅にあがっている。基準額を定額にしないのは、かかった金額に応じて負担も少しずつ増やそう、ということなのだと思うが、そのくらいもってくれてもいいじゃないの、などと思ってしまう。
ほかにも、多数該当や世帯合算という制度もあるのだが、果たしてこれはすべて申請されているのだろうか。該当することがわからずに申請漏れになっているケースも多数あると思われる。
病院のほうで「たぶん高額療養費に該当します」とアドバイスしてくれるところもあるのだが、もちろんすべてというわけではない。
栃木県の場合には、乳幼児や妊産婦に対して医療費の補助が自治体からあるのだが、これを申請するには、まず高額療養費を申請して、その決定通知をもとに、市町村役場に乳幼児・妊産婦医療費を申請するようになっている。しかし、高額療養費に該当するかどうかは、申請書に書いた金額ではなく、病院からあがってくるレセプトをもとに決定されるので、実際にふりこまれるまで3ヶ月ないし4ヶ月もかかってしまう。*2幸いわたしの家族は重い病気やケガの経験はないのだが、もし自分が該当したら、自治体への申請は忘れてしまいそうである。

知って得する年金・税金・雇用・健康保険の基礎知識―『自己責任』時代を生き抜く知恵

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*1:高額所得者や生活保護世帯をのぞいた一般的な場合。

*2:そのため、高額療養費の貸付制度というものがある。http://www.sia.go.jp/infom/pamph/dl/pamph02.pdf