まずい回答

【解説記事】個人事業主と扶養(読売新聞マネー相談室 2005/06/23)
上記リンクは、社労士が年金や社会保険の疑問について回答するという形式の記事である。読売の解説記事であれば、読者数もブログなんかとは段違いで、影響力は大きいはずだ。ところが、この記事は、完全に間違いとはいえないものの、かなりまずい内容である。大切なポイントをふたつはずしている。
まずひとつ。
健康保険の被扶養者に該当する要件として「健康保険の被扶養者の要件である年収130万円(60歳以上、または障害者の場合は年収180万円)未満という要件を満たさないことになります」と説明されているが、これ自体は間違いではない。だが、質問者は「個人事業主」である。事業収入については「収入」ではなく、経費を引いた後の「所得」によって判断される。この質問者の場合は、月収38万円ということなので、経費を50%と見積もっても130万は軽く超えてしまうので、どちらにしても被扶養者になれない可能性が高いが、わざわざタイトルに「個人事業主」と入れていて、給与所得者との違いを説明しないのでは、なんのための解説かわからない。
また、最後の段落も、かなり微妙な書き方である。
表面上は請負契約であっても、実態は労働者という場合、社会保険が適用されるというのはそのとおりなのだが、その場合、その会社の一般の労働者に比べて、おおむね4分の3以上の時間就労していなければ、対象とならない。いわゆる「正社員」以外の働き方の人にアドバイスする場合には、これは必ずおさえておかなければならない点だろう。
さらに、被扶養者になるための要件と、本人が社会保険の被保険者になるための要件は、実はリンクしていない。かりに家族の被扶養者になるだけの要件を満たしている人でも、その人が社会保険の適用事業所に常勤で勤めていて、勤務時間が先に述べたように一般の被保険者の4分の3以上であれば、社会保険の被保険者となる。「被扶養者になれるので、社会保険に入らなくていいです」というのは、ありがちな話だが、法律上は間違いである。この点について、どうも誤解されそうな記述である。
もう一点、これは新聞の解説記事では書けないだろうけど、実際には労働者といえるような働き方をしている人に対して、会社が業務請負契約を結ぶ、というのは、社会保険の被保険者にしたくない、つまり、社会保険の会社負担分を逃れたい、という動機であることが多い。この質問者が社会保険事務所に行って、こうこうこういう事情で、社会保険に入りたいのですが、なんて会社の名前を出して相談した場合、調査まで行かなくても、会社に社会保険事務所から問い合わせの電話が入った時点で、「業務請負契約」自体を失いかねない。
社会保険の適用逃れを黙認するつもりはないが、本人には行動のしかたによっては、職を失う可能性がある、ということを指摘しておく必要があるだろう。個人事業主としてのリスクをとっても、その会社との契約に魅力があれば、自分で国民健康保険国民年金に加入すればいい話だし、社会保険に加入することを重視するのであれば、「業務請負」という働き方を辞めて、「正社員」として働ける別の会社を選んだほうが、現実的だ。